Photograph — Matt Walsh (via Unsplash)
金曜の夕方、東京駅の新幹線ホームには、平日よりやや大きめのバッグを持った乗客が目につく。ノートパソコン、洗濯物、数日分の食材。彼らは東京で働く会社員や自営業者で、週末ごとに長野・千葉房総・茨城・静岡などの「もう一つの家」に向かっている。この光景は2020年以降、確実に増えた。
「二拠点生活」という言葉が広く使われるようになったのは2010年代後半からだが、実践者が目立って増えたのはコロナ禍以降である。リモートワークが一時的にせよ標準化したことで、週に何日かは物理的に東京にいる必要がないという状況が生まれた。この変化に呼応するように、地方自治体、不動産事業者、住宅メーカーが二拠点生活向けのサービスや商品を用意し始めた。
「二地域居住」という行政用語が指すもの
国土交通省は「二地域居住」という用語を使い、都市と地方の両方に生活拠点を持つライフスタイルに関する調査・支援を続けている。国土交通省の調査によれば、何らかの形で二地域居住を実践している、または強く関心を持っている層の数は、コロナ禍以降に増加した。ただし、この数字には別荘所有の富裕層から週末だけ地方を訪れる層、本格的に二拠点で生計を立てる層まで、性質の異なる人々が含まれている。
内閣府の地方創生関連調査でも、20代から40代の若年・現役世代で、地方への関心を持つ層が長期的に増えていることが指摘されている。もっとも、関心があることと、実際に二拠点生活を成立させることの間には大きな距離がある。実際に二拠点生活を続けている人々は、関心層に比べれば少数にとどまる。
典型的な実践者像
日経ビジネスや日経ARIAなどが取り上げる二拠点生活の実践者像には、一定のパターンがある。年齢は30代半ばから50代、職業はITエンジニア、コンサルタント、デザイナー、編集者、作家などリモートワーク親和性の高い業種、世帯年収は平均より高い層。住宅は、東京圏の賃貸マンションか持ち家と、地方の古民家または安価な中古一戸建てという組み合わせが多い。
地方側の住居を選ぶ基準としては、東京からの移動時間(新幹線または高速バスで2〜3時間圏内)、インターネット環境、地域コミュニティとの相性、そして住宅取得コストが挙げられることが多い。長野県の佐久平・軽井沢、千葉県いすみ市・鴨川、山梨県富士吉田、静岡県伊豆エリアなど、新幹線や特急でアクセスしやすい地域に実践者が集中している。
二拠点生活は、二つの家を持つことではない。一つの生活を二つの場所に分けて営む実践である。
— 『二拠点生活の教科書』(関連書籍)
経済的負担という現実
メディアが描く二拠点生活の映像には、古民家での読書、畑でのハーブ収穫、地元食材の料理といった豊かさの記号が並ぶ。しかし、実際に継続するには相応の経済的負担がある。住宅の維持費(固定資産税、修繕、水光熱費の二重分)、移動費(新幹線・高速・ガソリン)、生活用品の二重購入——これらを合計すると、単純に東京のみで暮らす場合より年間数十万円から数百万円の追加負担が発生する。
そのため、二拠点生活を経済的に持続可能にするには、地方側の住居コストを極力抑えることが前提になる。空き家活用、古民家の自主改修、地域の協力的な受け入れ体制——こうした条件がそろわない場合、二拠点生活は富裕層の別荘ライフと大差ないものになってしまう。
一方、2010年代後半以降、全国各地の地方自治体が移住・二拠点居住を支援する制度を整備した。住宅取得補助、空き家バンク、リノベーション支援、光回線の整備など。これらの制度の効果はまだ評価途上だが、少なくとも実践のハードルを下げる方向には作用している。
地域コミュニティとの距離
二拠点生活が難しくなる最大の要因は、地域コミュニティとの関係性である。NPO法人ふるさと回帰支援センターが相談窓口で把握しているように、地方での生活に踏み切った人々が途中で断念するケースの多くは、経済的理由よりもコミュニティ関係の摩擦に由来する。
地方の集落には、長年積み重ねてきた人間関係と暗黙のルールがある。ゴミ出し、草刈り、葬祭の参加、地域行事への協力——これらを「義務」と感じるか「コミュニティの一員としての自然な参加」と感じるかで、継続可能性が大きく変わる。二拠点で週末だけ滞在する場合、地元住民から「中途半端な住民」と見られがちな構造的課題がある。
コロナ禍後の反動と定常化
2020年から2022年にかけての急速なリモートワーク拡大は、2023年以降、多くの大企業で部分的に揺り戻している。週3日または週5日の出社を求める企業が増えたことで、「週末だけ地方」のスタイルは維持できても、「平日も地方」のスタイルは難しくなった層が多い。
このため、二拠点生活の実践者層は、2022年前後のピークから若干減少している可能性がある。一方、一度始めた二拠点生活を続けている層の内部では、パターンの定常化が進んでいる。地方側の住居を改修し、地域行事に一定の頻度で参加し、地元の人間関係を丁寧に築く——観光消費的な二拠点ではなく、生活基盤としての二拠点が形成されつつある。
「移住」との違い
二拠点生活は、地方移住と混同されがちだが、実態は異なる。移住は都市との関係を基本的に断ち、地方に生活基盤を移す。二拠点はその関係を維持したまま、地方にもう一つの基盤を作る。この違いは、経済的持続性においても、心理的なコミットメントにおいても、決定的である。
ある意味で、二拠点生活は移住ほど大きな決断を必要としない折衷解として選ばれている。都市部の収入源を維持しながら、地方での時間と空間を得る。この「いいとこ取り」的な側面が魅力である一方、どちらの拠点でも「100%の住民」にはなり切れないという緊張を生む。
編集室の観察
二拠点生活は、21世紀前半の日本における住まい方の多様化を象徴する選択肢の一つである。ただし、これが一般的な生活様式になる可能性は高くない。経済的・社会的条件が限られた層にしか実行できないこと、そして職業やライフステージによって実行可能性が大きく変わることを考えると、少数派として定着する形が現実的だろう。
編集室として継続的に観察したいのは、二拠点生活が地域社会に対してどのような影響を長期的に与えるか、という点である。一過性のブームに終わらず、地域の人口動態や経済活動に組み込まれていくのか。あるいは、訪問者と定住者の二層化が進み、地域社会の厚みを薄める結果になるのか。10年後、20年後の検証が必要な主題である。