マンションの屋上や小区画で育てられる野菜の鉢とプランター
随筆 · 人・社会

都市ガーデニング——屋上農園・シェア菜園が作る新しいコミュニティ

Photograph — Markus Spiske (via Unsplash)

2026年4月24日 7分で読める

練馬区の住宅地の一角、かつて個人宅の庭だった600平方メートルの土地が、30区画ほどに分けられて貸し出されている。週末の朝、利用者たちが自分の区画で野菜の世話をしながら、隣の区画の人と情報交換をしている。収穫したトマトを、水やりを代わりにやった隣人におすそ分けする。この風景は、東京の都市農地の現在の一つの姿である。

東京都の都市農地データ、農林水産省の都市農業振興基本計画資料、そして各区の市民農園整備状況を見ると、東京の都市部における農地の減少は続いているものの、その中で「市民が利用できる農地」の仕組みは近年整備が進んでいる。単なる緑地保全ではなく、食べ物を育てる市民農園・シェア菜園・屋上農園が、都市コミュニティの新しい形を生み出している。

都市農地の現在

東京都の都市農地は、長期的には宅地化によって減少を続けてきた。東京23区内の農地面積は、1960年代には10,000ヘクタールを超えていたが、2020年代にはその10分の1以下にまで縮小している。多摩地域を含めても、東京全体の農地は全国比で僅かである。

しかし、2015年に施行された都市農業振興基本法以降、都市部の農地を「農業のための土地」として積極的に位置付ける政策転換が進んだ。それ以前は、宅地化を促進する税制のもとで農地所有者が農業を続けるインセンティブは弱かった。法改正後は、農地を保有し続けるための相続税猶予制度や、生産緑地制度が一部改善された。

この政策転換を背景に、個人所有の農地を近隣住民に貸し出す仕組み、また自治体が運営する市民農園、民間運営のシェア菜園が、それぞれのモデルで広がっている。『都市農業の新展開』や農研機構の調査資料によれば、2010年代以降、東京23区および周辺の市区で市民農園の新規開設数は着実に増加している。

都市の中に農地があることの意味は、野菜を生産することではなく、都市住民が土に触れる機会を維持することにある。

— 『都市農業の新展開』関連書籍

市民農園のパターン

市民農園には、いくつかの運営パターンがある。第一に、自治体が運営する公設の市民農園。練馬区、世田谷区、足立区、調布市などが代表的である。区画面積は15〜30平方メートル程度、利用料は年間数千円から1万円台、利用期間は1〜3年の更新制。申込は抽選が一般的で、特に23区内の人気区画は倍率が高い。

第二に、民間運営のシェア菜園。「Share畑」「アグリメディア」などの事業者が、農家から借り上げた土地を区画に分けて貸し出す。公設より利用料は高いが、管理用具・種苗・講習が含まれており、初心者でも手軽に始められる。2010年代後半以降、首都圏・大阪圏で拠点数が拡大している。

第三に、農家が直接運営する援農型・体験型の農園。農家の作業を手伝いながら、自分の区画でも野菜を育てる形式。収穫の一部を持ち帰れることが多く、農作業の技術習得と地域農家との関係構築を兼ねた仕組みとして機能している。

屋上農園という垂直空間

都市部で水平の農地が限られるなかで、屋上空間の農園利用が少しずつ広がっている。マンション・オフィスビル・商業施設の屋上を農園として整備する事例は、1990年代後半から散発的に現れ、2010年代以降はデベロッパーが環境貢献策として取り入れるケースも増えた。

屋上農園は、地面での栽培と比べて水分管理・風対策・土の厚みの制約など固有の技術的課題を持つ。しかし、ビルの屋上という未利用空間を活用できる点、居住者や勤務者が気軽にアクセスできる点、ヒートアイランド抑制効果がある点など、都市固有の利点も持つ。積水ハウス、三井不動産、東急不動産などの大手デベロッパーが、新築物件で屋上農園を設計に組み込む事例が増えている。

もっとも、屋上農園が実際に継続的に使われるかどうかは、住民・勤務者のコミットメントに大きく依存する。設計時に設置されても、数年後には荒廃しているケースもある。管理コストを負担する主体、手入れする人員、収穫物の扱いなどの運営設計が、物理的な施設設計と同じくらい重要になる。

屋上農園や小区画の市民農園は、都市の中で土に触れる数少ない機会を提供する。 Photograph — Zoe Schaeffer (via Unsplash)

参加者の動機と世代差

市民農園の利用者調査を自治体レベルで見ていくと、参加者の動機は食料自給ではない。野菜の自給を意図して始める利用者は少数派で、多くは「身体を動かしたい」「土に触れたい」「子どもに収穫体験をさせたい」「近所の人と知り合いたい」といった動機を挙げる。つまり、市民農園の機能は「食糧生産」ではなく「都市生活の補完」として認識されている。

世代差もある。60代以上の利用者は、幼少期に何らかの形で農作業に触れた経験を持つ層が多く、「懐かしさ」「引退後の健康づくり」として市民農園に通う。一方、30代・40代の利用者は、子育て世代が多く、子どもの食育・自然体験の場として利用している。20代の利用者は比較的少ないが、一部は「観葉植物以上、市民農園未満」のベランダ栽培から入る傾向がある。

コミュニティ形成の副産物

市民農園の最も興味深い機能は、収穫物以上に、利用者同士のゆるやかなコミュニティ形成である。週末に同じ時間帯に通う利用者の間には、自然と挨拶や情報交換が生まれる。水やりを頼み合う関係、収穫物のおすそ分け、種苗の交換、栽培のアドバイス。これらの交流は、マンションの隣人関係が希薄化している都市部において、貴重な人間関係の場となっている。

日経ARIAや日経MJの特集記事が取り上げるように、市民農園で知り合った利用者同士が、農園外でも付き合いを続けるケースが少なくない。退職後に市民農園を始めた高齢者にとっては、地域との接点を作る重要な場になっている。子育て世代にとっては、近所の別の親子と知り合うきっかけとなっている。

この「コミュニティの副産物」の価値は、定量的には測りにくい。しかし、都市の中で人が知り合う機会が構造的に減っている現代において、食べ物を育てるという共通の関心事のもとでゆるやかに人が集まる場所は、それ自体が重要な社会インフラと言える。若手農家の動きとも、食を介した人間関係の再構築という点で深くつながっている。

編集室の観察

都市ガーデニングの広がりは、単に「都市で野菜を作る人が増えた」という現象ではない。食料生産の観点では、都市農地の生産量は全国の食料供給に対して無視できる規模である。この動きの本質は、都市住民が土と向き合う時間と、その周囲に生まれる人間関係の質にある。

編集室として継続的に観察したいのは、この動きが都市計画や住宅設計にどこまで組み込まれるかという点である。新築マンションに共用農園を設ける事例、公園の一部を市民農園に転換する取り組み、商業施設の屋上を解放するプロジェクト——これらは現在は散発的だが、今後10年で標準化する可能性がある。都市の中に「食を介した接点」をどう維持するかは、住宅設計一人行動の問題とも重なる、現代都市の本質的な問いである。