若い農家が野菜を収穫する農地の風景
随筆 · 人・社会

若手農家の時代——有機・自然栽培・ダイレクト販売という働き方

Photograph — Zoe Schaeffer (via Unsplash)

2026年4月24日 7分で読める

千葉県いすみ市の若手農家が育てた有機米は、首都圏の個人客にオンライン直販で出荷される。東京の飲食店からの注文もある。一方、地元のJA(農協)を通じた出荷はほぼゼロ。売上規模は大きくないが、利益率は高い。この経営モデルは、2010年代半ばから全国各地で増えてきた若手農家の典型的な姿である。

農林水産省の新規就農者調査によれば、農業への新規参入者の総数は、日本の農家全体の世代交代を賄うには依然として不十分である。農業就業人口は長期的に減少し、農家の平均年齢は70歳近い水準で推移している。しかしこの背景の中で、若い新規参入者の「質」——何を、どう作り、どう売るか——が、かつての世代とは明確に異なる方向に変わりつつある。

新規参入者の経営モデル

若手の新規参入者には、いくつかの共通するパターンがある。第一に、農地の規模は中小で、多品種栽培を選ぶケースが多い。一品目の大量生産ではなく、野菜・米・加工品を組み合わせた「多角化した少量多品種経営」を基本とする。第二に、栽培方法は有機、自然栽培、特別栽培(減農薬・減化学肥料)を選ぶことが多い。第三に、販売ルートはJA経由ではなく、直販、定期便、飲食店直接取引が中心である。

『農を変えた若者たち』や日経クロストレンドで紹介される事例を見ると、このモデルは特に以下のような条件下で成立しやすい。消費者層へのアクセスが確保できる都市近郊(千葉、埼玉、長野南部、神奈川西部)、SNSでの情報発信に慣れた若い経営者、小規模でも質の高さで単価を上げられる作物選択、そして最低でも3〜5年は赤字を許容できる資金基盤。

もっとも、この経営モデルで十分な所得を得るまでには、通常5年から10年の期間が必要である。最初の2〜3年は農作業に習熟する時期、次の2〜3年は販売ルートを確立する時期、その後ようやく収支が安定してくる。この長期間の収入不安定を乗り越えるために、地方自治体の新規就農支援金、農業次世代人材投資資金、家族の副収入などが重要な役割を果たす。

農業を変えるのは技術ではなく、販売の相手が誰かという問いである。顔の見える相手に届ける農家は、農業そのものを書き換える。

— 『農を変えた若者たち』関連書籍

有機JAS認証の普及と限界

有機農産物の認証制度である有機JAS認証は、2001年の本格導入以降、認証面積・認証農家数ともに少しずつ増加してきた。農林水産省の統計によれば、有機JAS認証農家数は全農家数に占める比率では依然1〜2%台にとどまっているが、若い新規参入者の中では認証取得率が高い。

ただし、若手農家のすべてが有機JASを取得するわけではない。取得には年間の審査費用・書類手続きの負担があり、直販・飲食店取引が中心の場合、顧客が求めるのは「認証」よりも「信頼関係」と「畑の見学可能性」であることが多い。このため、認証を取らずに自然栽培を続ける農家も一定数いる。

オルター・トレード・ジャパン(ATJ)や大地を守る会などの有機農産物専門の流通業者は、有機JAS認証を軸に持ちつつ、認証外の農産物も扱っている。この柔軟性が、生産者と消費者の双方にとって利便性を高めている。

定期便モデルの定着

2010年代後半から定着したのが、野菜の定期便(CSA=Community Supported Agriculture)モデルである。消費者は月額固定料金を支払い、農家はその時期に収穫される野菜を直送する。この仕組みは、農家にとっては収入の安定化、消費者にとっては旬の野菜との出会いという利点を両方にもたらす。

坂ノ途中、ポケットマルシェ、食べチョクなどのプラットフォームは、この定期便モデルの普及を大きく後押しした。個別の農家が自前でECサイトを運営する負担を軽減し、消費者にとっては複数の農家を比較・選択できる仕組みを提供した。日経MJの消費特集では、これらのサービスが2020年代に入って急速に利用者を増やしたことが報じられている。

一方、定期便モデルには「野菜の種類を消費者が選べない」「天候に左右される」といった特性がある。これを不便と感じる顧客もいれば、「届いてから何を作るか考える」という楽しみとして受け入れる顧客もいる。顧客層の絞り込みは、このモデルの成否を左右する。

若手の新規参入者による有機栽培は、作物の質に対する執着と販売チャネルの工夫によって支えられている。 Photograph — Markus Spiske (via Unsplash)

飲食店との直接取引

都市部の独立系飲食店——レストラン、ビストロ、和食、パン店、カフェ——は、若手農家にとって重要な販売先となっている。直接仕入れ関係を築くことで、農家は卸値より高い価格で出荷でき、飲食店は食材の出どころを顧客に説明できる。互いに利益がある関係である。

この取引関係は、単なる売買を超えて、シェフと農家の相互影響を生むことがある。農家は飲食店のリクエストに応じて珍しい品種や早採り・遅採りを試み、飲食店はその実験的な食材を使ってメニューを作る。この双方向のやり取りが、有機・自然栽培系の飲食の質的な向上を支えている。

地域農協との緊張関係

若手農家と地元のJA(農業協同組合)との関係は、地域によって温度差が大きい。JAは伝統的に、出荷・販売・資材供給・金融の一括サービスを提供してきたが、直販モデルを選ぶ若手農家にとっては、JA出荷のメリットが限定的である。結果として、JAを経由しない若手農家が増え、地方の農業経済の構造が部分的に変わりつつある。

一方で、JAが若手の新規参入者向けに独自の支援策を整備する動きも現れている。農地紹介、研修、共同利用機械の提供、販売支援など。若手農家とJAの関係は「対立」というより「新しい共存モデルの模索」に入っている。地域によっては、JAの組合員としての関係を維持しながら、販売の一部は独立して行うというハイブリッドな形が一般化してきた。

移住との関連

若手の新規農家の相当数は、他地域からの移住組である。地方移住5年目の実態で論じた通り、地方への移住と農業への新規参入は、しばしば同じ人物・同じ家族の選択として現れる。このため、若手農家の経営モデルは、農業技術だけでなく、地域コミュニティへの参入プロセス、複業の設計、家族の合意形成といった非農業的な要素にも大きく左右される。

地域おこし協力隊の任期終了後に就農する事例も増えている。3年間の協力隊期間中に地域との関係を築き、農地の引き継ぎや住居の確保を進め、任期終了時に独立した農家として活動を始めるパターンである。これは、個人が単独で新規参入するよりも成功率が高いことが、現場の報告から示唆されている。

編集室の観察

若手農家の新しい経営モデルは、日本の農業全体を数字の上で変えるには至っていない。農業就業人口の高齢化と全体的な減少の流れを、若手の参入が覆せるほどの規模にはなっていない。しかし、農産物と消費者の関係の「質」という側面では、明確な変化が起こっている。誰が作ったか分かる野菜が、首都圏の一定の消費者層のなかで定着しつつある。

編集室として継続的に観察したいのは、この「質の変化」が今後10年、20年でどこまで広がるかである。現在、直販・定期便・飲食店取引といったチャネルを通じて若手農家の生産物に触れる消費者は、全消費者の中では少数にとどまる。この層が拡大するかどうかは、価格面の折り合い、物流コストの動向、消費者の食への関心の持続性にかかっている。都市ガーデニングの動きとも連動しながら、食をめぐる消費者の意識は、静かに、しかし確実に変化しつつある。